【 君の元へ 】
夕方の優しい匂いも教室の空気も空の明るさも
いつもと変わらへんはずなのに…
心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになる。
一体何で…?
ただ…普段と違うことと言えば、
いつも隣に座っているはずの… いつも憎まれ口を叩いているはずの棗の席が
今日1日中ずっと空席になっていたことだけ。
「何で棗おらへんのやろ」
ポツリと呟いた声は誰にも届かず空気に溶けていった。
もしかして具合悪いのかな?
良からぬことばかり考えてしまう。
そんなときガラリと教室の扉が開き終礼中だったクラスの生徒全員が
いっせいに注目をするがたちまちどよめきが起こる。
確かに扉を開けて入って来たのは棗だった。
しかし手足や顔には痛々しいほどの傷や痣があり
棗の身に「何かがあった」ということを嫌でも思い知らされた。
蜜柑の隣の席に無言のまま座る棗を心配し蜜柑は声をかけた。
「なぁ棗…こんな時間までどこで何してたん?」
「俺に関わるな」
棗はそう冷たく言い放つと蜜柑の方から顔を背けた。
目の前で苦しんでいるのに少しも助けてあげられへん自分の無力さに腹が立つ…
一体うちには何ができるんやろ…?
考えて考えてある考えにぶつかった。
「そうや!!」
突然大声をあげた蜜柑にみんなは驚いていた。
「み…蜜柑ちゃーん…どうしたのかな?」
ナルは恐る恐る蜜柑に尋ねるが蜜柑は自分の考えつめて出てきた考えに満足し
一人で「うんうん」と頷いていた。
それから蜜柑は大袈裟によろけると
「なっ…鳴海…うちは具合が悪いです。
お腹が痛いっ…頭痛もするし……なので早退させていただきますっ!!!!」
蜜柑は教室をものすごい勢いで駆け出して行った。
「えっ!?蜜柑ちゃん?ちょっと待っ……ぐはっ」
ナルの言葉も虚しく蜜柑はあっと言う間に見えなくなってしまった。
(蛍様の軽い打撃により発せられた最後のぐはっと言う声は聞かなかったことにしよう)
* * *
夕日はもうすぐ沈む…。
蜜柑は所々にある窓からの光をくぐり抜けて先へ進んで行った。
ほんの少し前に特力の先輩から聞いた話があった。
『ねぇそういえば…佐倉さんは北の森にこういう伝説があるの知ってる?』
初めて聞く伝説の話に不思議と引き込まれたのを覚えていた。
『どんな伝説なんですか?』
『北の森の奥地に夜の月の光の中でしか咲かない
真っ白な花があるらしいんだけど…
その花には悲しい話があるの…
昔とても気の優しい男の人がいました。
でもその人は体が弱くて病院の外に出られませんでした。
どうしても外の世界に憧れて夜に病院を抜け出しては
月明かりだけを頼りに北の森を散歩したりしていました。
嵐が来た次の日に森へ入ると小さな木が薙ぎ倒されていました。
その木を可哀相に思ったその男は毎日森へ来ては
その木に水をあげたり話かけたりしました。
するとその木は日に日に元気を取り戻しました。
ある日いつものように男は小さな木の所へ行くと
そこには美しい女がいました。
しかし一目見てその女の人は人間ではないとわかりました。
その女は背中に小さな羽根をもち体は光輝いていたのです。
それでも友達のいなかったその男は毎日その女に会いたくさんの話をしました。
彼女はこの男に助けられた木の精霊であること、
男は夜にしか外へ出られないことも…。
彼らは互いに惹かれあっていきました。
しかしそんな時悲劇は起こったのです。
その男は突然病気が悪化し死んでしまいました。
深く悲しんだ精霊は彼と過ごした楽しかった日々を忘れないようにと
彼の純粋な優しさの色…
そして二人の出会った月の光の中でまたいつの日か再び出会えるように...
夜にだけ咲く白い花を創りました。
…で、その花はどんな人にでも幸せを運ぶ力があるの。
蜜柑ちゃんも大切な人にあげるといいわ。』
『大切な人?』
その時にはまだ「大切な人」なんて考えたことなかった。
もちろん今だって蛍も委員長も当然大切な人だけど…何か違う。
いつだってその人のことを考えたり、その人の一言に一喜一憂したり…。
それが『恋』というものなのだろう。
蜜柑はひたすら森の奥へと進み森の1番奥地へ着くと白い花を探し始めた。
その頃にはもう日は沈み辺りは真っ暗だった。
この森には凶暴なテディベアや巨大なヒヨコがいるため蜜柑にとってあまり居心地のいい場所ではなかった。
「白い花なんてどこにもあらへんわ…一体この広い中からどうやって探せばええねん!!」
辺りの暗さは視界を奪うような暗さでさすがの蜜柑も少し恐くなってきた。
そんなときガサガサと何かが近づいてくる音がし恐怖心を覚えた蜜柑は大きな木の影に隠れた。
巨大な木の影にしゃがみ込めば真っ暗ななかに浮かび上がる真っ白な花があった。
「あった!!!」
蜜柑がうっかり大声を出せば足音は近づいてくる。
もう駄目だと思い目をつぶった瞬間力強く誰かに抱きしめられた。
「ほえ?」 そっと目を開ければ目の前には息を切らせた棗がいたのだ。
「…勝手にいなくなるな。」
「捜してくれてたん!?」
「……早く帰るぞ」
言葉と共に差し出された手に優しさを感じ蜜柑は手を重ねた。
その時棗はとても優しい幸せそうな顔をしていたとか…
夜に咲く白い花は闇の静けさを吸っていっそう綺麗に咲き乱れていた。
にぎりしめた手には温もりを…そして幸せは君の元へ…。
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言い訳
アリス祭の作品です。妙な伝説を付け足してみたり。。。
読んでくださってありがとうございました。